走り、跳び、投げる!
中学生のころ、陸上部の生徒に「陸上って走ったり、ジャンプしてるだけだろ。毎日走ってるだけの部活のどこが楽しいんだ?」と聞いたことがある。からかっていたわけでも、けんかを売っていたわけでもない。本当に不思議だった。
野球やサッカー、バスケットなどの部活でも、練習を始めるときにはまず走るが、それは基礎体力をつけるためだ。球技は走れなければできないが、走れるだけでもできない。走って基礎体力をつけたあとに、ボールを使った練習がある。そこからが楽しいから部活を続けられる。
基礎体力をつけるために5キロ、10キロと走る基礎練習を楽しいと感じたことは一度もないが、試合を楽しむためには我慢しなければならない。ランニングや腹筋、腕立て伏せは我慢してやるものだ。それ自体が好きな生徒がいることが不思議だった。いじめられて喜んでいるマゾヒストなのだろうかと思っていた。陸上部員は「楽しいっていうか、走るのが好きだから」と答えた。
韓国テグで開かれた世界陸上は面白かった。男子100m走で優勝候補のウサイン・ボルト選手(ジャマイカ)がフライングで失格して以後、他の種目のスタートも緊張して見るようになった。男子800mではマサイ族のデービッド・ルディシャ選手(ケニア)が圧勝した。ルディシャ選手の黒光りする鋼のような肉体を見ると、自分のぜい肉だらけの体がハンペンかさつま揚げのように見えてくる。
女子走高跳びではアンナ・チチェロワ選手(ロシア)がブランカ・ブラシッチ選手(クロアチア)を破って優勝した。2人とも秋葉原で売っているフィギュア並みに手足が細長い。フィギュアが鹿のように跳躍するのだから、まるでアニメの世界を見ているようだった。
中学時代に戻れるなら、陸上部員に謝りたい。陸上競技は面白い。短距離走のスタートの緊張感、長距離走の駆け引き、投てき種目のプレッシャー、リレーで毎回のように起きるドラマ。シンプルなルールで走り、跳び、投げる力を競うからごまかしがきかない、本当の力と力の勝負になる。やたらと興奮し、うるさくはしゃぎ回る司会者ではなかったら、もっと競技に熱中できたかもしれない。